ITUジャーナル2026年2月号に特集論文を掲載
衛星×5Gネットワークにおける柔軟な経路選択・品質制御等を活用した実証実験
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、スカパーJSAT株式会社および国立大学法人東京大学の3者は、ITUジャーナル2026年2月号に「衛星×5Gネットワークにおける柔軟な経路選択・品質制御等を活用した実証実験」の特集論文を掲載しました。
本特集論文は、NICTによる高度通信・放送研究開発委託研究における研究課題「Beyond 5Gにおける衛星-地上統合技術の研究開発(採択番号21901)」に採択され、2020年度から2024年度まで実施したプロジェクトの研究成果を報告しております。
<執筆分担>
特集 衛星×5Gネットワークにおける柔軟な経路選択・品質制御等を活用した実証実験
・NICT Beyond 5Gに向けた衛星地上統合ネットワーク技術の研究開発
・スカパーJSAT ローカル5G×GEO/LEOバックホール統合の実証と評価
:高信頼・大容量の実現に向けて
・東京大学 ローカル5Gバックホールの研究開発
<報告概要>
衛星通信と5G/ Beyond 5Gを統合したネットワークの商用化に向けた取組が国内外で活発になっている。
NICTでは2019年に「衛星通信と5G/ Beyond 5Gの連携に関する検討会」を立ち上げ、有効なユースケース、技術課題とその解決策、評価・デモンストレーションおよび標準化等について検討を行った。また、欧州宇宙機関(ESA:European Space Agency)と趣意書を締結して本分野における日欧連携を強化して、NTN技術のグローバルな視点での研究開発および通信インフラの実現に向けた取組を推進している。
これらを踏まえて、NICTは高度通信・放送研究開発委託研究において研究課題「Beyond 5Gにおける衛星-地上統合技術の研究開発(採択番号21901)」を立ち上げ、受託者の日本無線、スカパーJSAT、東京大学と共に、日欧連携フレームワークの下、2020年度から2024年度までプロジェクトを推進した。
前半のPhase1(2020年度~2021年度)は、国内初となる静止衛星回線を含む衛星-5G統合制御に関する日欧共同実験を実施した。
後半のPhase2(2022年度~2024年度)は、GEO(Geostationary Earth Orbit:静止軌道)衛星回線・LEO(Low Earth Orbit:低軌道)衛星回線とローカル5Gを接続し、災害時をユースケースとしたデモンストレーションを実施した。経路制御、衛星QoS(Quality of Service)制御、スライシング技術を用いた実証実験を行い、動的なバックホール経路の切替えやQoS制御に成功している。
スカパーJSATは、ローカル5Gのバックホールとして、特製の異なる複数軌道の衛星通信を活用し、「QoS制御」と「経路制御」を組み合わせたネットワーク環境を構築し、回線状況に応じた動的な制御の有効性を実証した。実証の結果、高度数百~数千kmを周回するLEO衛星による大容量データ伝送と、高度約36,000kmの静止軌道にあるGEO衛星による安定した帯域確保とを組み合わせることで、スループットの向上と通信の安定性の両立が可能であることを確認した。
東京大学は、研究開発項目2「ローカル5Gバックホールの研究開発」を担当した。
ローカル5Gバックホールとして衛星リンクを利用するためには衛星リンクの遅延対策
および狭帯域での災害時のトラフィック輻輳を回避する優先制御の課題を解決する必要がある。
そこでBeyond 5Gにおける衛星と地上の統合に必要な技術を確立するために3つの開発目標を掲げた。
- 目標1 SDN/NFV技術開発
衛星リンクの狭帯域+遅延大の制約対策として、緊急用トラフィック検出機能と輻輳制御機能および遅延対策機能を実現するSDN/NFVを開発する。 - 目標2 ネットワークスライシング技術開発
ネットワークスライスのためのSDN/NFV 技術で開発する機能の静的あるいは動的機能配置する技術や、それに係わるネットワーク運用技術を開発する。
- 目標3 ネットワーク管理技術開発
衛星コンポーネントを含むネットワークスライスの生成・削除するための動的リソース管理技術を開発する。
研究成果(目標1 SDN/NFV技術開発)
User Equipment(UE)が5Gに同時接続する際に送信される制御信号が、5Gモバイルコアの大規模な輻輳を引き起こし、通信障害となる事例が増えている。こうした通信障害は主に5Gモバイルコア内の制御プレーン(C-Plane)で起きており、特にUEが5Gモバイルコアとの接続を確立する前の段階で輻輳が生じ接続に失敗することが問題であることが知られている。
上記課題を解決するため、5Gモバイルコアの制御プレーンにネットワークスライシングを適用する、制御プレーンスライシングを提案する。
5Gモバイルコア内で頻繁に輻輳が観測されるNF (Network Function)に制御プレーンスライシングを適用し、CPU資源をモバイルコアのNFに最適配分するCPU傾斜配分を適用することで、UEと5GCとの接続における最初の処理の輻輳を軽減し接続の失敗を防ぐことが目的である。
CPU傾斜配分を適用することにより、制御プレーンスライシングの性能(輻輳軽減と優先制御)の向上を図り、平均UE接続台数が2.4倍増加した。
研究成果(目標2 ネットワークスライシング技術開発)
災害監視システムではIoT 用途の通信プロトコルMQTT(Message Queuing Telemetry Transport)がセンサーデータの送受信に適用されることが多い。そこでMQTTの通信性能が向上可能なネットワークスライシング方式を提案する。
提案手法により、ネットワークスライシングを利用しない方式と比較して、MQTTの送信メッセージ数を1000メッセージ以上増加できることを明らかにした。
今後は遅延・ジッタの安定化に向けた方式の改良を検討していく。
研究成果(目標3 ネットワーク管理技術開発)
衛星地上統合システムのためのネットワークスライシング・ネットワーク管理手法を確立した。今回、GBRクラスに該当する5QIに基づくQoS制御を適用し、提案手法を実装している。まず、アプリケーションごとに異なるネットワークスライスのN-NSSAIと5QIを割り当てておく。アプリケーション開始時はネットワークスライスに割り当てられた初期設定の5QIで運用される。優先させたいアプリケーションの要求が利用者から出たタイミングで、優先する必要がないアプリケーションの5QIをGBRクラスに変更し、変更したGBRクラスが持つ最大・最小帯域の値を設定することで、可能な限りネットワークスライスの帯域を制限させる。これにより、優先させたいアプリケーションの帯域を確保することが可能となる。
今後は緊急時のようなヒューマンエラーを可能な限り避ける必要のあるユースケースにおいて、利用するアプリケーションに応じて、設定したポリシーに従い、ネットワークスライスの自動適用するソフトウェアの開発が必要であると考える。
以上の結果は、衛星通信を活用したローカル5Gの実運用に向けた技術的有効性を示すとともに、Beyond 5G時代における災害時通信や非地上系通信基盤への展開可能性を示している。
今後、商用システムへの実装や、社会的受容性を考慮した機能の追加・改良が不可欠である。これにより、ローカル5Gは単なる通信インフラを超えて、社会全体の「次世代サイバーインフラ」として広く普及し、我が国の安全・安心を支える重要な基盤となる展望を描いている。
<掲載先>
ITUジャーナル2026年2月号
https://ituaj.jp/?itujournal=2026_02
特集 衛星×5Gネットワークにおける柔軟な経路選択・品質制御等を活用した実証実験
Beyond 5Gに向けた衛星地上統合ネットワーク技術の研究開発
ローカル5G×GEO/LEOバックホール統合の実証と評価:高信頼・大容量の実現に向けて
ローカル5Gバックホールの研究開発
<参考資料(成果報告書)>
令和6年度研究開発成果概要書(Beyond 5G における衛星-地上統合技術の研究開発)
https://www.nict.go.jp/collabo/commission/seika/r06/21901_gaiyo.pdf
令和6年度研究開発成果概要図(目標・成果と今後の成果展開)
https://www.nict.go.jp/collabo/commission/seika/r06/21901_gaiyo_g.pdf
令和5年度研究開発成果概要書(Beyond 5G における衛星-地上統合技術の研究開発)
https://www.nict.go.jp/collabo/commission/seika/r05/21901_gaiyo.pdf
令和5年度研究開発成果概要図 (目標・成果と今後の研究計画)
https://www.nict.go.jp/collabo/commission/seika/r05/21901_gaiyo_g.pdf
令和4年度研究開発成果概要書(Beyond 5G における衛星-地上統合技術の研究開発)
https://www2.nict.go.jp/commission/seika/r04/21901_gaiyo.pdf
令和4年度研究開発成果概要図(目標・成果と今後の研究計画)
https://www2.nict.go.jp/commission/seika/r04/21901_gaiyo_g.pdf
令和3年度研究開発成果概要書(Beyond 5G における衛星-地上統合技術の研究開発)
https://www2.nict.go.jp/commission/seika/r03/21901_gaiyo.pdf
令和3年度研究開発成果概要図 (目標・成果と今後の研究計画)
https://www2.nict.go.jp/commission/seika/r03/21901_gaiyo_g.pdf
