Abstract

モバイルトラフィック増大による通信網やクラウドへの負担増大へのソリューションとしてMECが挙げられる.MECは従来の手法に比べて通信遅延を低減させることが可能なため,ITSのような低遅延を要件とするシステムへの応用が期待されている.しかし,現行の携帯電話網である4Gではこれを達成するのは難しい.そこで次世代の携帯電話網5Gでは,次世代のシステムを達成するためにどのような性能要件を満たす必要があるのかといった具体的な議論が求められている.
また車両の移動に伴い,情報の処理を行うべき最適なポイントやデータのルーティング先が刻一刻と変化するため,これへの対応も必要も必要である.さらにこれまでのMECでは処理の分散と低遅延にのみ注力しており,情報の地理的な広さについては考慮していないが,情報の地理的な広さと遅延はトレードオフの関係にあり,アプリケーションによって最適なポイントが異なる.そのため様々なシステムに対応するには複数の選択肢を用意し,その中から利用者が自身にとって最適なポイントを選べるような機構が必要である.
そこで本研究では,上記の問題を解決するMECにおけるPub/Sub方式の超低遅延イベント処理の実現を目的とする.Pub/Sub方式ではデータの送受信者がお互いに通信相手を指定せず,データのルーティングはbrokerと呼ばれるserver上で行われるフィルタリングに基づいて実施される.そのためノードの移動に対してロバストであり,動的なルーティングが行える.また各ノードが保持する情報の地理的な範囲に差異を持たせ,利用者に複数の選択肢を与える.最終的に,提案システムを試作し実際に稼働させることによって,提案システムにおいてITSの通信要件を満たすために満たさなければならない通信の性能要件を算出し,これを5Gの性能要件の一案として示す.

戸笈拓海, 中尾彰宏. “協調運転支援のためのMECにおける超低遅延イベント処理方式の評価”. 信学技報, vol. 115, no. 483, NS2015-225, pp. 329-334, 2016年3月. copyright©2016 IEICE